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Lee-Byung-hun addicted

Lee-Byung-hun addicted

第6話

『Recollection』 第6話



「揺、何があったんだよ。」

揺のただならない様子を心配して

彰介は彼女のタクシーに無理やり乗り込んでいた。

「おい、揺!」

「今は話したくない。ちょっと黙ってて」

揺の目は一点を見つめたまま動かない。

(私は一体何をしにここに来たんだったか・・・

そう。彼にすべてを話して彼の胸に飛び込みに来たんだった。

・・・でもできなかった。

何故だかわからない・・あの彼女のせいなのか。

彼のせいなのか・・・晋さんのせいなのか。

いや、誰のせいでもない。私のせいだ。私、一体どうしたらいいんだろう。)

彼の顔を見れば三ヶ月前に簡単に戻れると確信していた揺は

思ってもいなかった事の成り行きに動揺していた。

彼の顔を見ても三ヶ月前になぜ戻れなかったのか。

何故抱きつけなかったのか。そして必死に考えた。

そして自分の気持ちがどこにあるのかは

彼でなく自分に聞くことなのだとわかった。

(この気持ちのまま彼には会えない・・・・・。)

揺が次に口を開いたのは羽田行きの飛行機の中だった。

「彰介、仕事ある?何でもいい。

ガイドでも雑用係でもとにかく東京を離れられれば。

じゃないと私・・・・壊れるかもしれない。」


揺とは長い付き合いの彰介だったがこんな揺は見たことがなかった。


東京へ着くとすぐ彰介は揺がこなせそうな仕事を手配した。

ちょうど友人のテレビ制作会社で

ボストンのロケのスタッフとして英語が堪能なアシスタントを探している口があった。

期間は二週間。

揺はすぐにボストンへ旅立った。

彰介は心配ではあったが

仕事をさせておけばたぶん彼女は一人で立っていられると思った。

それくらいしか彼の出来ることはなかった。




もう、ほとんどの主要場面の撮影は終わっていたとはいえ、

あの日以来の撮影はビョンホンにとってとてつもなく辛いものだった。

ふと我に戻るとあのときの揺の顔が浮かんだ。

悲しいのか・・・失望したのか・・・

その顔からは感情が全く汲み取れなかった。

人はどんな時にあんな顔をするのだろうか・・・。

早く撮影を終えて揺に会いにいかなくてはならない。

そう思うと焦って演技がうまくいかなくなることもあった。

こんなことは最近では全くないことだった。

自分でもどうしていいのかわからなかった。

「後、少しだ。とにかくこの三ヶ月の苦労を無駄にしてはいけない。」

そう思い最後の数日は必死に集中しようと努力した。

そんな中撮影が全日程を終えたのはあの日から1週間後のこと。

映画のプロモ-ションの仕事などが山積みだったが

無理を言って二日だけ休みをもらった。

そしてビョンホンは東京に向かった。



パリ。

晋作は自分の席のある大学病院に

しばらく休暇をとることを告げに立ち寄っていた。

揺がブルキナファソを出発してすぐ彼は休暇を申し出た。

やはりあの状態で揺を帰したのが心配でならなかった。

彼女の幸せな姿を見届けなければ・・・

あいつは不幸になっても自分からは絶対連絡してこない。

彼はわかっていた。

パリの夜。

東京への飛行機は明日出発だった。

一人パリの街を散歩する。

小さな映画館の前、一枚の印象的な東洋系のポスターが目に留まった。

「lee-byunghun・・・・ってビョンホン?まさかな・・・でも。」

彼は半信半疑のまま映画館に入った。

上映していた映画は『a bittersweet life』

映画といえば高倉健という晋作の胸にソヌは強く印象付けられた。

「このオトコなのだろうか・・・」

晋作は映画のチラシを握り締め映画館を後にした。

どうしても彼のことが気になった晋作は

ホテルに帰るとインターネットでイ・ビョンホンについての検索をかけた。

出てきた情報はというと

「共演者と熱愛!クランクアップ後に婚約発表か!」

とか

「結婚秒読み・・イ・ビョンホンとスエ」

そんな記事ばかりだった。

映画を観て彼に好感を持っていた晋作だったが

この記事を読んで映画のビョンホンは

揺が愛しているオトコとは別人であろうと信じて疑わなかった。




「ごめんください~」

突然やってきた精悍な顔つきの色黒の男に不二子は驚いていた。

「・・・・どなたですか?」



「それで遥々アフリカから揺を追っかけてきたの?」

トメと不二子はお茶を飲みながら彼の話を聞いていた。

「ええ。」

「今時、珍しい若者だね。チョコレート美味しいし。

私、こっちの肩持っちゃおうかしら。ヘッヘッヘ・・・」

トメはそういって高らかに笑った。

「そんなに揺のこと好きなの?あんなにおっぱい小さいのに。」

不二子もチョコレートをひとつつまんだ。

「あら、美味しいじゃない。あら、ばあちゃん、こっちにしとく?」

そういうとニヤッと笑った。

「ええ。おっぱいも・・・もう10年見てませんけど好きです。

でも、全部好きです。」

「あら、10年前に見たんだ・・・・・ふ~ん」

二人に嘗め回すように観察された晋作は居心地が悪そうに頭をかいた。

「・・・で揺さんは?」

「ん?仕事でボストン行っちゃった。

仕事っていったってここにいたくなくて無理やり作った感じだけどね。」

「何でここにいたくないんですか?」

「う~ん、・・・いろいろあるのよ。」

その時タイミングよくチャイムが鳴った。

「ごめんください~」

「あ~~~~いろいろが来た」

トメと不二子はついに来たかという顔で目配せをした。

「薬箱ってあったっけ?」

トメはおもむろに不二子に尋ねた。




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